*この文章は不快な内容が多く含まれています。

特にレイプなど性暴力を体験された方はご注意ください。

また、あくまでも私自身の実体験をもとに構成してはいますが、すでに過去の話であり、加害者そのほかが特定されないよう、細かいディテールについてはファジーにしております。ご了承ください。

 

 

 

 

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それは私の誕生日の翌日の昼下がりのことだった。

私は街でピアノ練習用の楽譜を買おうとしていて。

ある顔見知りの男性に声をかけられた。

 

ものすごく仲がいいわけではなかったけれども。

まあ友達のBF…くらいの、

関係性の男性だったので…

特段警戒もしなかった。

 

たまたま…

車椅子で自走するには道の状態が悪かった。

――オレ、ヘルパーの資格持ってるんだ。

安全なところまで押してあげるよ。

 

そういうから。

厚意に甘えて任せていた…ら。

 

私はいきなり通りの裏側の、

人気のないところに車椅子ごと連れていかれ。

 

着ていたチュニックをキャミソールやブラジャーもろとも捲し上げられた。

さらにはサブリナパンツをショーツごとズリ下ろされた。

 

障害のため痛めている股関節を押し広げられるまでもなく。

 

 

 

私はこれから自分が何をされるのか理解はしたけど。

 

声なんて出せる状態ではなかった。

声が出せなかった。

 

男性は行為の最中、それこそ獣みたく興奮していた。

一度は興奮の余り、挿入まで至らなかった。

でも、それで解放してもらえるわけでもなくて…

私は数回避妊具もないまま犯された。

 

 

 

その後、どうやって帰宅したのかよく覚えていない。

 

 

 

まず警察に連絡した。

でも…調書を取られる間じゅう、私は私自身に落ち度があるから、

乱暴されたのだということを男の警察官から言われ続けていた。

 

ただでも…女性として言い難いことを説明しているのに。

 

警察での取り調べが終了したあと、

私は産婦人科に出向いた。

本来であれば病院に行ってから警察に届けるのがベストだったんだろうけれども…

気が動転して判断すら出来なかった。

 

当時、私は結婚していたけど。

夫はおろか家族の誰も乱暴されてボロボロになった私に、

付添いすらしてくれない。

 

だからって、ひとりで受診出来る状態でもなく、

私はプロの物書きだからアシスタントの男の子に、

タクシーで連れていってもらった。

 

産婦人科を受診した時、

警察での事情聴取後だったこともあって、

深夜10時を回っていた。

 

産婦人科医は傷ついて涙している私を一瞥し、

…なんでこんな時間に来たの、こっちも疲れてるんだよね。

そう平気で言い放った。

 

それでもあの屈辱的なポーズで、

内診台で脚を開いて性器を診てもらうしかなかった。

 

 

私は股関節が悪くてもともと脚がうまく開かない。

もういろんな意味で私は泣き続けていた。

 

 

 

 

検査の結果、膣内を損傷していただけではなく。

私はSTD(性感染症)を伝染されていた。

 

さすがにそのあとの処置のあいだ。

私は泣かなかった…いや、心が鈍麻しちゃって、

疲れてすでに私は涙も出なくなってしまったのだ。

 

 

 

 

当然、保険適応でもないから。

病院代45,000円をなけなしの手持ちで支払う時。

深夜の救外受付も兼任する事務の担当男性がこう口にした。

 

 

――レイプされて、それで家族も来ないんだ。

そんな女性じゃねえ…まあ、こんなことがあっても仕方ないよね。

運が悪かったんじゃない?

 

 

運が悪かったじゃ済まないんだよ!

そう言い返す力すら私にはなかった。

言い返すための言葉すら浮かんでは来なかったというほうがむしろ正確。

 

 

 

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しょせんは田舎町のことだから。

私が面識のある男性から乱暴されたということは。

私の知らないところで瞬く間に広まってしまった。

 

面識のある男性だから逆に始末が悪かった。

 

 

いつの間にか私が加害者である彼を誘惑し、

…やっぱり、魚心あれば水心だよね。

悪いのは誘った女のほうだろうという内容に話がすり替えられていた。

 

 

「女の敵はおんな」だとよく言われるけど。

 

確かに女性のほうが私のつらい体験を、

話を盛りまくって吹聴しがちだった。

女性のほうが噂好きだし、噂のネタも途切れがちな田舎においては、

私の「不幸」は格好の楽し過ぎる面白すぎる話題でしかなかったのだ。

 

 

あの事件以来…ただでも外出が怖いというのに。

ご近所ですら変な目で見つつ噂するから。

スーパーへの買い物にすら行けなくなる私。

 

 

 

 

しかも。

当日の私はチュニックにサブリナパンツという、

一般的な既婚女性が着ているような服装であったにもかかわらず。

 

 

――そもそもあの女は。

水商売の女性風のケバいメイクで。

ミニスカートを穿いて脚を剥き出しにし、

いかにも男好きする格好だったと。

 

 

あからさまに悪意を持って出鱈目な話に置き換えられて噂された。

 

 

ちなみに。

仮に…その日私がミニスカートを穿いていたんだとしても。

車椅子に座った姿であればスカートの丈はたいして関係ない。

嘘だと思ったら実験してみればいい、

普通の椅子に腰かけてもそれはわかるはず。

 

あるいは。

レイプされた彼女が例えどんな短いスカートを穿いていたとしても。

彼女の合意もなく力を以てセックスを強要した、

男性がまずは非難されるのが筋だろう。

 

それをなぜ、

被害者の女性だけが面白おかしく噂話のネタにされて、

苦しまなければならないんだろう。

 

 

善意ある人は「一日も早く忘れなさい」と…

そう口にしていたけど。

でも…それも私の真なる傷みに対しては、

まったく以て心に沿わないものでしかなかった。

 

 

忘れればいいんだよ、早く忘れて次に踏み出しなさい。

そういわれても忘れられないから苦しいというのに…

 

 

まるでいつまでも根に持っているような自分がいけないのか…

そこまで私は思い悩んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 

ほかにもここでは話せないようなことがいろいろあって。

私はその地方の街を離れ、東京に帰ってきた。

 

 

…本当に無責任な噂や私に対する中傷ばかりがなされて、

私は地域に住めなくなってしまったから。

 

 

 

 

 

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一方、加害者男性は…

私があれだけ警察のつらい取り調べに応じたにもかかわらず。

 

私は男性と多少の面識こそあった、

でも。さすがに本人について、

そこまでの事情は知らなかったんだけど…

 

――加害者の彼には数回の精神科通院歴があり、

精神疾患を事由に障害基礎年金を受給している事実もあるということで。

 

事件に対する責任を一切問えないとされ、

単なる警察からの「厳重注意」のみで終わった。

 

まあ、その後彼は精神科の主治医に、

事後報告として事件の概要だけは伝えられ、

一度は半強制的に精神科受診となるも、

すでに充分反省しているとされて入院はおろか、

のちの通院も中断となった。

 

 

 

 

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以降、話が逸れまくりますが。

 

ほんとうは。

最後の加害者男性の「処分」や、

話の顛末については触れないでおこうとも思っていました。

 

 

だけど。

それはある意味逆に精神障害者に対する差別になると感じるから。

敢えてディープな内容ですが触れさせていただきました。

 

 

障害の有無にかかわらず。

いい人もいれば悪い人もいるのが社会でしょう。

他人を傷つけ、罪を犯せば、

何人も自己の行為に対して責任を問われるべきです

 

 

しかも。

「心神喪失者もしくはその疑いがあるものについては責任能力を問えない」とする。

刑法39条が設定された明治時代に比べれば。

 

*参考「刑法第39条は不磨の大典?」矢野啓司・千恵

http://www.rosetta.jp/kyojin/report33.html

 

 

 

現代においては精神科の薬物療法は飛躍的に進歩し。

精神疾患はそれまでの「不治の病」から。

 

完治はしないまでも充分に完解が望め、

正しく治療すればコントロール出来得る、

単なる慢性疾患の一種となりました。

 

 

 

知的にハンディキャップがある子どもに対する療育や教育についても。

 

1979年の就学免除廃止及び養護学校(当時・現在は特別支援学校)への、

全員入学が定められてから。

 

障害児療育や教育はまだ「完璧」とはいえないにせよ。

私が子どものころ受けたそれに比べれば遥かに内容も充実し。

一定の効果を望めるだけのノウハウも確立されつつあります。

 

 

 

それなのになぜ。

法律上はまだ彼らを「責任能力を問えない」対象と、

決めつけてしまうのでしょう。

そのほうがよほど差別にも思えるし。

 

 

また。障害の内容・種類を問わず。

ほとんどのハンディキャップを背負っている人たちは、

おとなしくてどちらかというと臆病で。

危険などころか心優しい人物だというのに。

 

 

 

――どうせあいつら、刑法39条で「保護」されているんだろう?

 

 

何かあってもあいつらに対しては責任能力は問えないんだから。

結果として健常者のほうが泣き寝入りすることになるんだから。

関わるなよ、近づくなよ。障害者は怖い連中だから…

 

 

 

 

 

そういう…障害者に対する誤った認識や差別を助長し、

社会に誤解を招いていると。

当事者の立場から私はいつも感じています。

 

 

もともと、障害児・者に触れる機会すらあまりないもの。

 

たまに一般の子どもが通う小学校などで。

「仲よし交流会」みたいな名称で特別支援学校の児童と接する、

そんなことも行われてはいますが。

 

車椅子に乗った子どもが涎を垂らしながら、

う~う~奇声を上げている。

 

正直…小学生の子どもが抱く率直な感想はそんなレベルです。

知らないんだし。

 

 

 

しかしながら。

…障害のあるお友達はみんなステキな子でした。

そう模範的な感想文を書いて提出しないと、

担任の先生に叱られ、場合によっては書き直しを命じられるんだとか。

 

 

別に思ったままを書いてもいいんじゃんって思うのですが。

――車椅子のお友達の手は涎でベタベタだったとか、

車椅子のお友達は変な声を出してばかりなのでボクは怖かったです…とか。

 

そこを無理やりおとなが。

こんなことを考えたり書いたりしちゃダメでしょ!なんて、

幼い子どもを叱るから。

 

子どもはただ障害というものが何なのかわからないだけなのに。

障害者とはただかかわってはいけない相手だという思い込みだけを刷り込まれる、

そんな「仲よし交流会」になっているのが現状です。

 

 

しかも…

よっぽどの凶悪犯罪でもない限り。

 

刑法39条に相当する「心神喪失=障害者」は、

どんな罪を犯しても責任能力さえ問われず、

ちょっとの期間の拘束を終えればまた社会に放たれる危険人物だ。

 

 

 

そんな話であれば。

誰しも自ら危ないことに巻き込まれたくはないのだから。

距離を置きたくなるのは必然です。

 

 

障害者の「人権」を守るための法律が。

そのじつ一番障害者を差別しているという現実は。

痛々しいくらいの皮肉な結果しか招いてはいません。

 

 

 

 

 

 

 

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とにかく…あの事件以来。

私の女性としての時間は停まってしまいました。

遺っているのはひたすら重たい記憶だけです。

 

 

あれから十年近くが経過した今でも、

一連の記憶がフラッシュバックして泣けてしまう夜も。

 

 

 

実際にはもっといろいろあったのですが…

全部お話しすると私は心が崩壊してしまいそうです。

 

 

 

 

私の心もまた、あの日以来動かなくなってしまっているので…

そうでもないと、心が壊れてどうにかなってしまいそうなほどの…

つらい記憶でしかないので。